2022/11/03 20:45
久野愛
『視覚化する味覚』
(岩波新書 2021年)
食品の買い物のオンライン化は、20世紀半ば以降広まった食料品店のセルフサービス化がもたらした変化と同様の、またはそれ以上の新しい消費形態だと言えるだろう。
例えば、スーパーマーケットは、新鮮さや美味しさを視覚的に表現し、消費者の目に訴える新たな視覚性を構築と共に発展してきた。商品の陳列や店内照明、冷蔵ケース、包装容器などさまざまな技術や方法を駆使して、スーパーマーケットの美学とも言える新鮮さの視覚化が行われてきた。
SNSの写真においては「加工」「共有」「いいね」することが重要となったのだ。この撮影から共有までの一連の操作は、被写体への態度も変化さえた。SNSの写真には、日常の記録や思い出の保存というだけではなく、むしろそれ以上に、ユニークな見た目であることが求められる。それはSNS写真独特の美学である。
ここで重要なのは、ある色、見た目が逸脱であると認識するには、何がオリジナルかを知っている必要があるということだ。つまり19世紀末以降の食べ物の色の構築の上に成り立つものであり、色の標準化や人工的に作られた自然な色という概念をある意味でより強固にするものだとも言える。
19世紀に入り、科学と産業とが密接に結びつき、科学技術や関連知識は急速に拡大していった。
大量生産・大量消費時代を迎えた19世紀末以降の色彩科学の発展は、ニュートンが解明したような色のメカニズムをさらに進展させ、色を数値化し測定する手法も開発された。食品をはじめとした多くの産業で、色を利用した新しい商品開発やマーケティングが進められた。つまり色の商業利用が拡大し、人々の視覚環境が変化した時期でもあった。
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山野井徹
『日本の土』 (築地書館 2015年)
日本の表土の最上部にあるクロボク土は、火山灰ではなく微粒炭が腐食の保持に関与したもので、その微粒炭は縄文期の野焼き・山焼きで発生したことを導いた。この野焼き・山焼きは、縄文人のニッチ(生活空間と食料)の確保のための草原(疎林)作りであったと考えた。こうした人為的なニッチ作りは、人が自然を変える第一歩でもあった。縄文時代の自然の改変は台地や丘陵地の一部にとどまったが、弥生時代からは低地にも及んだ。
更新世の末期には、寒冷な氷期から温暖な間氷期に移行する大きな変化が認められている。すなわち、この変化により日本列島の食性は、森林が針葉樹林から広葉樹林に移り変わるなどの大転換がなった。それに伴い動物も自身のニッチ(生態的地位)の適合のために移動したはずである。
ニッチとは、端的に言えば自然環境の中で、他の生物との関係において、どこで何を食べて適応していくかといった生活のあり方である。それは種の進化の身体的特質に基づく行動で定まる。
ニッチを作るために「火」を道具として使用し、野焼き、山焼きをした。樹木は焼かれて草原(疎林)になる。そこには食糧として良好なワラビもある。野焼き・山焼きによる草原の形成は、食糧となる多様な植物を生育させ、より安定した生活を可能にしたはずである。
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赤坂憲雄
『東西/南北考』
(岩波新書 2000年)
焼畑農耕の形式を例として、太平洋側/日本海側を分つ文化領域の可能性を問いかけてみたい。東北には伝統的な焼畑農耕において、二つの類型が存在するという。
一つは北上山地において分布するもので、春巻きの大豆・粟を主作物として、輪作期間の極めて長い、大変労働集約性に優れたアラキ型の焼畑である。
今一つは、奥羽・出羽山地から上越・頸城山地にかけて分布が見られる、夏焼き方で、蕎麦・蕪・大豆・小豆などを主作物とする、耕作期間の短いカノ型の焼き畑である。前者が東北北部の太平洋。後者が東北北部から新潟あたりまでの日本海側に広く分布していることになる。
東北は言うまでもなく、東日本の北半を占める広大な地域である。
おそらく、その全域が北の文化と東や西の文化と拮抗し合う、それ故に「ボカシの地帯」である。