nokatachi

2023/07/16 17:40



21_21という東京の美術館で2023年7月14日〜11月5日まで展示(吉田さんの作品内の部分参加)をしています。
悩みに悩んで、何度もやり直して出来上がったモノなので、是非見て頂けると嬉しいです。

アスパラガス農家の冬は仕事が無いので、冬季期間、吉田さんの手伝いをしていた時に話を頂いてから、石炭を採集しにいきました。
石ころのように意識もしなかったモノが、私にとって貴重なモノになって考え続けた試行錯誤が展示されています。
https://www.2121designsight.jp/program/material/


石ころのような特別だった物へ。

アスパラガス農家に冬仕事はない。
なので吉勝制作所で冬の間は手伝いをしていた。
その時の仕事の合間で石炭で何か作る?と言う会話から始まった。


最初に手渡された石炭はとても貴重なモノのように感じた。
これを持っている私自身も特別な気がしてくる。
今思えば、特定の場所には石ころのように落ちているモノだが、その時はそう思った。

石炭を実際に見たのは初めてでした。
貰ってから作業机の上にお気に入りの石と一緒に置いて常に見ていました。石みたいにパサパサしていなくて、しっとりした見た目をしている。それぐらいの想像しかできなかった。

今まで生きてきた中で、石炭に興味を持ったことなど一度もないわけで石炭のことを理解しようと、わざわざ調べるために県立図書館まで行き地質学の本を見てみる作業に取り掛かる。
とはいえ、どれだけ石炭を考えても私の中にあまりにとっかかりが無くて困りました。結局、自室にあった本棚に昔買った「陶芸の土と窯焼き」と言う本を読み返すと、「天目茶碗の素晴らしさは石炭燃料で焼成したからだ」という一文を発見しました。これだっ!と思い、それに関係するような本を当たりました。明治期に陶芸の窯焚きで燃料に使っていた時期がある。
さらに調べてみると、油頁岩というのも釉薬に関係しているらしいとなる。

次に、調べてみるだけでは分からないので、吉勝制作所で鶴岡市の石炭が採れる浜辺に行くというので、同行させてもらう。
4月25日の当日は快晴で干潮時の海はとてもキレイだった。釉薬に使う素材として石炭以上に油頁岩の採集を目的に行く。
そこで、専門家さん達と合流して話を聞く。採ろうと思っていた油頁岩というのは地質学的な用語ではなさそうで頁岩のことだろうということになった。さらに釉薬にはどんな要素が必要なのか聞かれ、二酸化珪素/酸化マグネシウム/酸化カルシウム/酸化アルミニウム、の要素が含まれていることが重要だと話すと、火山灰の要素に似ていると教えてもらう。なので、今見えている2000万年前の石炭層には火山灰が降り積もって出来た擬灰岩があるからそれも一緒に採集した。

専門家の方からあっちからこっちまで大体2000万年前だと、教えてもらったが想像が追いつかなかった。地質学の本で前もって調べておいた情報だと3億年前に石炭は形成され始めたとも書いてあった。なので採ったらなくなることは分かるが、採っても採っても目の前にあるので採りたくなる。なんせ貴重だと思っていたモノが目の前にあるわけだから拾わない手は無いわけだ。
しかし、ここで問題に当たります。
もってきたハケゴにいっぱい入れると重い。腰に巻いていた紐が吊落ちでしまう。肩にかけ直すと重くて肩が外れそうにもなる。乗ってきた車に採集したものを置きに引き返すが4人乗りの車で3人で乗ってきて荷物もあるので空きスペースがない。仕方なく荷物を寄せてスペースを確保して置いてきた。そして空になったハケゴを持って再度、海岸へ向かう。
採集も終わり、これで当分ここに車で2時間かけて来なくて済む。
アスパラガスに時間が奪われていまい、最終に来る時間がなくなってしまうので身の回りに確保できて一安心だ。

焼成を終えてみて、想像していたモノと別のモノが出来上がってきて、とてもワクワクした。しかし、今回の焼成では、この皿の上に料理を盛り付けてみようと思いが浮かばなかった。
思っていた釉薬らしさがなかった。それはガラスが溶けた感じ。今回は粉っぽい。料理を盛り付けた時に粉がゴミのように料理についてしまいそうだ。
今回の焼成では、泥炭/頁岩/擬灰岩の3種類で釉薬を作った。
石炭は、陶芸の先入観からやっても器が炭化するだけと思いやらなかった。しかし、泥炭が赤っぽく残ったのは予想外だった。これは泥炭の中の鉄分が反応した色です。釉薬で色がつくのはほとんど鉄分による色と言ってもいいぐらいで水っぽい緑色から赤っぽい色、黒色まで変化がある。当初は想像できなかった石炭ももしかしたら泥炭のように赤っぽくなるんじゃないかと思うようになった。

この石炭を見てみても肥料にも使え無さそうだし、鉱物の一種として顔料のようになるのではないかと思う。昨年の冬ごろから畑で器を野焼きして使っていたモノがあるのでそれに試してみることにした。
基本的なぜーゲル式の配合バランスがいい釉薬ができればそれに混ぜて使えそうだ。シリカ/アルカリ/アルミナの成分がいい感じで混在してそうなのが頁岩と思っていた。しかし、アルカリ成分が足らないことが出来上がったものを見てわかる。
出来上がったモノの中でも擬灰岩の釉薬の器で薄く塗られてた部分がガラス質で溶けていたので、ここの部分をもっと器全体に広げて目的に合ったものへ近づかせていく。
石炭だけでは無く石炭層として香頭ヶ浜を知ることが出来て、そこにある他の素材でも釉薬の一部として理解できそうだ。
それは今回やってみた範囲であり経験の延長線上にある。

それに採集時に所々に合ったプラスチックを釉薬として解釈もできそうだった。
今回はそこまでいけませんでしたが、別の機会の楽しみとして残しておこうと思う。
そして今回を踏まえて2回目の焼成に取り掛かる準備をする。

2回目の焼成を終えて、陶芸の術の釉薬で石炭と火山灰を溶かして皿にした。前回の火山灰で良かった箇所を抽出してエスカレートさせた。
出来上がったモノは、電気窯を担当してくれた斎藤さんとたくさん相談して出来たモノだったので一緒に感動した。
理屈としては、できるのはわかっていたけど実際に見てみるとテンションが上がった。
それは不安の中で想像通りことが進んだ安心だったのかもしれない。
とにかく溶けて良かったということ。
料理を盛り付けたいと思えるモノになった。これは料理人でもある私の思いです。アスパラガスの一本漬けを盛り付けたい。

工夫した点は前回よりも薄く塗った。
貝殻はアルカリ分が多いので釉薬の他の成分を溶かす役割がある。
砂はシリカ分の役割を期待したが、実際は溶けたもの溶けなかったもの、鉄分が反応して色味が出たものなど変化に富んでおり味わいが増した。なので、あの香頭ヶ浜だけで釉薬が作れることがわかった。
そうすると、アスパラガスを育てている畑でも釉薬が作られるかもしてないという想像ができる。
元々、釉薬は藁灰からできた歴史もあり畑や山などに自生する稲科で作ることが出来る。稲科はそもそも茎の部分に炭素を有しており、それが奥行きのある景色を器に残していた。炭素は熱で消えますが焼成中に溶け合う元素同士の間には、存在していた形跡を残す。
それは器に溶けた釉薬の中に微細な気泡として光が屈折して乳濁した感じからわかる。それはある種の揺らぎを作っている。

石炭は消えてなくなってしまうが、そこには空洞があった。