nokatachi

2023/10/28 12:27


アンディ・クラーク著 池上 高志 訳

『現れる存在』 (早川書房 2011年)

脳と身体と世界の再統合



問題と解決策が共進化しうる点だ。典型的な例は、違う動物種の間での追跡技能と逃走技能の共進化である。自然選択が働いているのは、固定した問題を「解決する」ためでは無いということだ。そうではなく、問題自身が置き換わり、共進化的変化の因果網の中にあって進化しいる。



アグリゲート(寄せ集め)システムは、構成要素的説明が最も適しているシステムだ。

そのようなシステムの定義は、パーツが互いに隔離されていても説明に有意義な振る舞いを示すこと、そして少数のサブシステムの性質を引き合いに出せば、興味深いシステム全体の現象が説明できることである。パーツ間の相互作用の複雑さが増すにつれて、説明のための分担はパーツではなくその組織化に、次第にのしかかってくるようになる。

その時は、我々は新しい種類の説明の枠組みを探さざるおえない。高等な生物の認知は、この連続的な複雑さの何処か中間あたりに収まりそうである。



我々には二つの欲求がある。(生命体ー環境相互作用と、構成要素間の複雑な相互作用の両方に適用すること)。これはシステムの状態の時間発展を記述するための人組の道具を提供する、その集合の時間発展を支配するのは一組の微分方程式である。この説明の重要な特徴の一つに、生命体と環境をまたぐことが容易にできるのことがある。その相互時間発展は、ある一組の連動した方程式で記述される。壁に取り付けられた振り子が、もう一つ別の振り子のある環境に置かれた時の振る舞いは、その簡単な例になっている。二つの振り子が物理的に近くに置かれていると、驚くべきことに、時間が経つにつれて揺れが同期してくる。この説明は二つの振り子を単一のカップルしたシステムとして扱っており、それぞれの振り子の運動方程式は、相手のその時点での状態による影響を表す項を含んでいる。



認知は、身体化され、環境に埋め込まれ、そして創発に溢れている。

この説明に向けての取り組みで見えてくる創発特性には、二つのレベルがある。

一つ目は内部によって創発する特徴であり、その時間発展を辿る集合変数を構成しているのは、内部にある複数の変動源の相互作用である。

二つ目は行動によって創発する特徴であり、その時間発展を辿る集合変数を構成しているのは、全体として機能する生命体と、その局所的環境との相互作用である。



高度な認知は、推論を消散させる我々の能力に決定的にかかっているという考え方だ。すなわち、獲得した知識や実利的な知恵を複雑な社会構造の中に拡散させ、脳を言語的、社会的、政治的、制度的な制約が複雑に入り込んだ中に置くことで、個人の脳にかかる負担を減らす能力である。

この考え方が的外れなものでなければ、人間の脳は、他の動物たちや自律的ロボットが持っている、断片化した、単一の目的の、行為指向的な組織とそれほど違わない。しかし、我々が決定的に抜きん出ている点がある。我々は物理的・社会的世界を構造化するのに長けていて、それによって脳のような不規則なリソースから、複雑で整合性のある振る舞いを捻り出せるのだ。我々の知能は、環境を構造化するために使われており、人間の脳プラスこうしたたくさんの外部の足場づくりこそが、ついには賢くて合理的な推論エンジンを構成するのであり、それを心と呼んでいる。ただし、我々を包む境界は、最初に考えていたよりもずっと外へ、世界の方へと広がっている。