nokatachi

2023/10/29 08:20

アンディ・クラーク著 池上 高志 訳

『現れる存在』 (早川書房 2011年)



組織、工場、オフィス、制度などといったものは、我々人間に独特な認知的成功のための大規模な足場である。だが、これらのより大きな全体体制は、個人の思考に影響し、その足場を支えているのと同様に、個人によるコミュニケーション活動や個別の問題解決エピソードによって構造化され、影響されていることも確かだ。身体化された心の認知科学において一つの重要なプロジェクトは、この複雑な相互関係を分析し、理解するということだ。


エージェントは少数の処理ユニット群が結合した小さなニューラルネットワークである。それぞれのユニットは、ある特定の環境の特徴をコードしている。興奮性の結合は互いを補強する特徴を接続し、抑制性の結合は互いに食い違う特徴を接続している。このようなネットワークは拘束条件充足ネットワークとして知られている。一度これの入力が一つの解釈に落ち着くと、そこから離れることは困難になる。それはユニット同士が相互にかなりの補強をし合っているからだ。これは確証バイアスという心理学的効果とかなりうまく合致している。


拘束条件充足ネットワークは初期活動レベル(素因)と、環境データへのアクセスの仕方が、それぞれ違っているとする。

もし最初から全てのネットワークが他のネットワークの活動に影響を与えられると(コミュニケーションできると)、システム全体の確証バイアスは酷くなる。この理由は、密なコミュニケーションパターンがあると、共有できるデータの解釈を素早く発見するよう、全てにわたって安定な活動パターンを見出そうと強力に追い立てられるからである。個々のネットワークは、外部からの入力データに十分な重きを置くのではなく、この内的な制約により焦点を合わせる。その結果、この社会集団は急速に「彼らが持つ素因の重心に最も近い解釈へと向かい、証拠(外部環境)はおかまい無しになる」。

対照的に、初めのうちコミュニケーションの程度を制限してやると、個々のネットワークには自分自身の素因を、環境から証拠によって相殺するだけの時間が与えられる。その後からネットワーク間のコミュニケーションが有効になるならば、全体の確証バイアスはかえって低減する。すなわち、この集団は平均的な構成員よりも、正しい解答に至る見込みが高い。

集合的な機構の内側に流れる(単語やシンボルといった)文化的人工物そのものが、特定の問題解決の必要性により応じられるものへと「進化する」ことが可能だということだ。


より優れた外部の人工物(月と潮汐の状態を表現するシンボル構造)が徐々に蓄積することで、全世代のネットワークが学習できなかった環境の規則性を後世代のネットワークが学習できるようになった。

我々の脳が構造化しながらその中に住んでいるこの世界は、文化、国家、言語、組織、制度、政党、電子メールのネットワークといった莫大な外部構造や足場に満ちており、それらが我々の日常の活動を誘導し特徴づけている、それを理解するプロジェクトである。



「マングローブ効果」のようなものは人間のある種の思考にも作用しているのではないだろうか。

マングローブは水に浮いたタネから生えてくる。タネは浅い泥の干潟に根を張って、水中で止まっている。苗木は水面を突き抜けてこんがらがった垂直に根を伸ばし、ついには、どこおから見ても竹馬に乗った小さな木のようになる。しかし気根というこのこんがらがった組織はすぐに、浮遊する土、雑草、漂流物を捕まえる。しばらく経つと、捕まえたものが積み重なって小さな島を作る。もっと時間が経つと島はどんどん大きくなる。そのような島の数が増えていくと、ついにはくっつくことができる。それは事実上、海岸線を木々のところまで延ばすことになる。このプロセスを通して、土地の方が木々によって段々と作られる。